from The fate that is changed



香穂子の腕が、柚木の腕から離れる。
気まずい沈黙。

せっかく一緒にいられる時間だというのに、ケンカなんてしたくない。
お互い、そう思っているのに。

気持ちがすれ違う。異なる時間を過ごした分。
それは仕方のないこと。付き合い始めた頃は、ちっとも気にならなかったのに。

「………ああ、見てごらん、香穂子。健康食品館、だって。女はああいうのが好きなんじゃないのか?」

険悪な雰囲気を払拭するように、柚木は明るく言った。
指差す方向を、香穂子も見遣る。

「あ、本当だ。…もしかして、ここかな?」

「知ってるのか?」

「はい、クラスの女子の間で流行ってるみたいで…」

「それなら、せっかくだから入ってみようぜ。」

柚木は少し強引に、香穂子の手を引いた。

 

 

 

「いらっしゃ~い☆」

中にいたのは、薄緑のウエーブがかかった髪をした、胡散臭い笑顔の…青年。
とはいえ凛々しい顔立ちで、やり手の営業マンにも見える。
日本人…ではないらしい。

「お兄さん、べっぴんなお嬢さん連れとりますなぁ~♪」

「や、やだ、べっぴんなんて…」

「………おい、香穂子」

あからさまなお世辞に頬を赤らめる香穂子。
柚木は、なんだかイヤな予感がした。この場所にいることは危険なんじゃないのか。

「お兄さん、よく見たらぎょーさんお金持ってそうに見えますなぁ。そんなおにいさんにお勧めの壷があるで!聖地価格でハート3つ…こっちの世界に換算するとたったの100万円や!どや!幸せ運びまっせ~?」

「柚木先輩!幸せを呼ぶ壷ですって!私、あれ欲しいです!」

「……………」

「今日は残り1つの人気商品やで!今買わなきゃソン!ってヤツや!」

「え~?私限定品に弱いんだよなぁ。柚木先輩、今までのことは水に流しますから、あれ買って下さい!」

「………仕方ないな」

騙されやすい彼女を持つと、苦労する。
しかし、柚木はそれをもカバーできる金持ち坊ちゃまだったのだった…。

「悪徳商法にご注意」

~完~