「かゆい。かゆいっ!か~ゆ~い~っっっ!!!」

ばりぼりと背中を掻きむしる火原を見て、香穂子は心配そうに顔を歪めた。

「大丈夫ですか、火原先輩?」

「うう、大丈夫じゃない…(泣)。かゆいよ~!」

彼は極度の乾燥肌だ。
冬はもちろん、夏でも痒くなるというのだから、もともと肌が敏感なのかもしれない。

シャンプーにリンス、ボディーソープに至るまで、自分の肌に合ったもの以外は使えないほど。

「背中ですか、火原先輩?」

「うん…(泣)」

「じゃあ、薬塗ってあげますね。ちょっと背中捲くりますよ?」

香穂子はそばにあった薬を手に取り、火原の背中へと塗ってやる。
ひんやりとしたクリームの感触と、柔らかな香穂子の指になぞられて、痒みは少しおさまった。

「ああ…まっかっか。火原先輩、染みませんか?」

「うん、大丈夫…。ありがとね、香穂ちゃん」

痛みはいつかおさまるけど、痒みはいつまでたっても続くもの。
だから本当に辛いんだよ!と火原は主張している。

「あっ…またむずむずしてきた!」

思わず背中に手が伸びる。

「だめですよ、火原先輩。薬塗ったんですから」

「でも…かゆいんだよ~!(泣)」

「私も小さい頃あせもがひどかったからよくわかります。かくとますます悪化しちゃいますよ?…そうだ」

香穂子は火原の背中を軽くぽんぽん、と叩き始めた。

「痒い時は、かかずに軽く叩くといいんですよ。どうですか?」

「あ…。う、うん、ちょっとラク…かも」

ぱんぱん、と優しく香穂子の手が火原の背中を叩き、その感覚にいつしかうっとりとしてしまった。
そして、ついうっかり口走ってしまう。

「なんか…なんかさ…。ちょっと、似てるよね…」

「え?」

「あの時の音に…」

ばちーん!

「あう」

優しく火原の背中を叩いていた手は、乱暴に振り下ろされた。

「いたた…。香穂ちゃん、冗談だよう…」

ぷい、と顔をそむける香穂子。
そんな香穂子が可愛くて、火原ははたまた便乗する。

「それでね、香穂ちゃん。今度は違うところがむずむずしてきたんだけど…」

「知りませんっ!」

にやにやとだらしなく顔を緩める火原の背中からは、とっくに痒みが消えていた。