「にゅ、入院?!」

『はい。昨日の夜、救急車で運ばれて。』

「だ…大丈夫なの?!一体………」

『盲腸です。夜には退院します。』

「な…なんだ…」

とはいうものの、どんな病気であろうと好きな人が入院したと聞いたら、いてもたってもいられない。
香穂子は志水の入院している病院へ急いだ。

「志水くん!」

「あ。香穂先輩」

「大丈夫?具合は?」

「いつもと変わりません。それより、わざわざありがとうございます」

「ううん、だって入院なんて聞いたからびっくりして…」

「ご心配おかけして、すみません。でも、大丈夫ですから」

「素直に信じられないよ…。あ、そうだ。これ、お見舞いね」

香穂子はフルーツの盛り合わせをどっかりとサイドボードに置いた。

「お見舞いって、本当に果物を持ってくる人、いるんですね」

「あっ、ダメだった?」

「いいえ、嬉しいです。香穂先輩からもらえるものなら、なんでも」

そんな志水に照れる自分を見られるのが恥ずかしくて、香穂子はいそいそと花瓶の水を替える。

その間、志水は果物の盛り合わせの中にあるグレープフルーツをじっと見つめていた。

「………?志水くん、グレープフルーツ食べたいの?剥こうか?」

「…はい。お願いします」

わかった、と香穂子は志水のベッドの横にある椅子に座り、グレープフルーツを剥きはじめた。

「はい、志水くん。すっぱいからあんまり食べ過ぎないようにね」

丁寧に剥かれたグレープフルーツを、香穂子の手からぱくりと食べる。
途端、口を尖らせた志水を見て、香穂子は笑った。

「………」

「あはは、やっぱすっぱかったんだ。ね、私も食べていい?」

「香穂、先輩」

「ん?………!」

ちゅっ。

「し、志水…くん…?」

「ファーストキスは、レモンの味だと聞いたので。グレープフルーツだと少し違うけど、近い味、しましたか?」

「…した、よ」

赤くなって俯く香穂子に、今度は志水が笑った。